肉離れになった瞬間、「どうしたらいい?」って焦りますよね。
ピキッという感覚とともに突然やってくる肉離れ。間違った対処をしてしまうと、回復が大幅に遅れてしまうことがあります。
この記事では、柔道整復師・高校サッカートレーナーとして13年以上現場に関わってきた経験をもとに、論文ベースの正しい応急処置と、試合復帰までの流れをわかりやすく解説します。
💡 この記事でわかること ・肉離れで筋肉に何が起きているか ・やってはいけないNG処置 ・正しい応急処置5選(POLICE処置) ・復帰までの3ステップ ・復帰を早める・遅らせる行動
肉離れとは何か|筋肉の中で何が起きているのか
肉離れとは、筋肉の線維が部分的または完全に断裂した状態のことです。
医学的には「筋挫傷(きんざしょう)」と呼ばれ、急激な筋収縮や過度のストレッチによって筋線維が損傷します。サッカーではダッシュやキック動作の際に、太もも裏(ハムストリングス)や太もも前(大腿四頭筋)に起こりやすいです。
損傷の程度によって3段階に分類されます。
| グレード | 状態 | 復帰目安 |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | 軽度の筋線維損傷 | 1〜2週間 |
| Ⅱ度 | 中等度の部分断裂 | 3〜6週間 |
| Ⅲ度 | 完全断裂 | 3ヶ月以上〜手術も |
💡 自分の経験からひと言
私自身、練習中にもも前(大腿四頭筋)の肉離れを経験したことがあります。ちゃんと安静にして対処したおかげで、3〜4週間で復帰できましたが、当時は「これで本当に治るのか」という不安との戦いでもありました。焦る気持ちはよくわかります。だからこそ、正しい知識を持って対処してほしいんです。
肉離れはなぜ起きるのか|原因とリスク要因
肉離れには、大きく分けて2つの原因があります。
①内的要因(身体の状態)
- 筋肉の疲労蓄積
- ウォーミングアップ不足
- 筋肉の柔軟性低下
- 筋力のアンバランス(前後・左右)
- 水分・電解質不足
②外的要因(環境・状況)
- 急激なスピードアップ
- 寒冷環境でのプレー
- グラウンドコンディションの悪化
- 過密スケジュールによる疲労
個人的な感覚ですが、選手との話の中で、疲労感がある選手に多い気がします。うまく疲労を除去しておくのも肉離れを予防する上で大切な要因だと感じています
やってはいけないNG処置|これをやると回復が遅れる
肉離れ直後にやってしまいがちなNG行動があります。知っておくだけで回復速度が変わります。
⚠️ ⚠️ 肉離れ直後のNG行動
①マッサージする 損傷部位を強くもむと、出血や炎症が広がります。受傷直後は絶対にやめましょう。
②温める・入浴する 熱を加えると血流が増加し、内出血が拡大します。受傷後24〜48時間は湯船に入るのもNGです。
③無理に動かす・ストレッチする 「ちょっと動かして確かめよう」は厳禁。断裂部位が広がるリスクがあります。
④放置してプレーを続ける 「少し痛いだけ」と思ってプレーを続けると、Ⅱ度からⅢ度へと悪化することがあります。
正しい応急処置5選|POLICE処置を解説
現在、スポーツ医学の現場ではPOLICE処置が推奨されています。
以前はRICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)が主流でしたが、近年は「適切な負荷」を加えたPOLICE処置にアップデートされています(Bleakley et al., 2012)。
P:Protection(保護)
損傷部位を保護します。テーピングや包帯で固定し、不必要な動きを制限しましょう。体重をかけないように松葉杖を使うことも有効です。
O:Optimal Loading(最適な負荷)
完全に動かさないのではなく、痛みが出ない範囲で適度に動かすことが回復を促進します。
「え、動かしていいの?」と思うかもしれませんが、これは論文でもしっかり裏付けられています。
ハムストリングス肉離れを対象にしたランダム化比較試験(Hickey et al., 2020)では、痛みのない範囲でのリハビリと痛みの閾値内でのリハビリを比較した結果、両群の復帰日数に有意差はなかったと報告されています。ただし、どちらの群も段階的に負荷をかけながらリハビリを行っており、早期から適切な負荷をかけること自体の有効性は支持されています。
ただし「最適な負荷」の判断は難しいので、専門家に相談しながら進めることを強くおすすめします。独断で動かしすぎると逆効果になります。
I:Icing(冷却)
受傷後すぐにアイシングを行います。
- 時間:15〜20分
- 頻度:2〜3時間おきに繰り返す
- 方法:氷をタオルで包んで患部に当てる(直接肌に当てない)
- 期間:受傷後48〜72時間
冷却には炎症・腫脹の抑制と鎮痛効果があります。
C:Compression(圧迫)
弾性包帯などで患部を圧迫します。腫れの広がりを防ぐ効果があります。きつすぎると血流を阻害するので、指が1〜2本入る程度の強さが目安です。
E:Elevation(挙上)
患部を心臓より高い位置に上げます。重力を利用して腫れや内出血の広がりを最小限に抑えます。
💡 現場でよく見るのは、アイシングが短すぎるケースです。「冷たいから」と5分で外してしまう選手がいますが、15〜20分はしっかりやりましょう。それだけで腫れの出方が全然違います。
復帰までの3ステップ|焦りは禁物
肉離れからの復帰は、3つのフェーズに分けて考えるとわかりやすいです。
ステップ①:急性期(受傷後〜3日程度)
目標:炎症と腫れを最小限に抑える
- POLICE処置を徹底する
- 安静を保ちながら痛みのない範囲で軽く動かす
- 患部に体重をかけない
ステップ②:回復期(4日〜復帰2週間前)
目標:筋力・柔軟性・動作を回復させる
- 痛みが出ない範囲でストレッチを開始
- 段階的に筋力トレーニングを追加
- ジョギング→直線ダッシュ→方向転換の順で負荷を上げていく
この時期に焦って負荷を上げすぎると再受傷リスクが一気に高まります。痛みのフィードバックを大切にしてください。
ステップ③:競技復帰期(復帰2週間前〜)
目標:試合強度に耐えられる身体をつくる
- チーム練習への段階的参加
- 全力ダッシュ・キック・接触プレーの確認
- 心理的な不安の解消
Orchard & Best(2002)は、肉離れ後の復帰タイミングと再受傷リスクにはトレードオフがあると指摘しており、痛みがなくなっても組織の修復は完了していないため、段階的に復帰を進める重要性を論じています。
復帰を早める・遅らせる行動
✅ 回復を早める行動
- 受傷直後のPOLICE処置の徹底
- 十分な睡眠(成長ホルモンによる組織修復)
- タンパク質の積極的な摂取
- 痛みのない範囲での早期運動開始
- 専門家(医師・柔道整復師・理学療法士など)への相談
❌ 回復を遅らせる行動
- 受傷直後のマッサージ・温め
- 「痛みが引いたから大丈夫」と早期に全力プレー
- 睡眠不足・食事の乱れ
- 自己判断での早期復帰
⚠️ 痛みがなくなっても、筋肉の修復は完了していません。「痛くないから復帰していい」ではなく、「段階的な負荷テストをクリアしてから復帰する」という考え方が大切です。
まとめ
肉離れの対処は、最初の行動が回復速度を大きく左右します。
- NG処置(マッサージ・温め・無理な動作)は絶対に避ける
- POLICE処置(保護・適切な負荷・冷却・圧迫・挙上)を徹底する
- 復帰は3ステップで段階的に進める
- 「痛みがない=完治」ではない
焦って復帰を急ぐよりも、しっかり治してから戻る方が長い目で見てプレー期間が長くなります。
不安な場合は、自己判断せずに必ず専門家に診てもらいましょう^^
参考文献
- Järvinen TAH, et al. (2005). Muscle injuries: biology and treatment. The American Journal of Sports Medicine, 33(5), 745-764.
- Bleakley CM, et al. (2012). PRICE needs updating, should we call the POLICE? British Journal of Sports Medicine, 46(4), 220-221.
- Orchard J, Best TM. (2002). The management of muscle strain injuries: an early return versus the risk of recurrence. Clinical Journal of Sport Medicine, 12(1), 3-5.
- Hickey JT, et al. (2020). Pain-Free Versus Pain-Threshold Rehabilitation Following Acute Hamstring Strain Injury: A Randomized Controlled Trial. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 50(2), 91-103.
- 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会(2019). 軟部組織損傷診療ガイドライン.

コメント